退職勧奨の目的は,言うまでもなく問題社員やリストラ対象社員を円満に辞めさせることです。そうすると,このような社員から退職合意書を取得できれば退職勧奨は成功,できなければ失敗といえます。ところが,失敗の中には,退職合意ができないだけでなく,退職勧奨が違法であるとして損害賠償請求を受けてしまうという最悪の事態もあるため注意が必要です。
会社としては,退職勧奨をするに当たり,このような最悪の事態を避けるとともに,成功の可能性を高めたいところです。そのためには,労働分野に強い弁護士のサポートを受けることをお勧めします。
そこで,本稿では,退職勧奨をする際,弁護士によるサポートとしてどのようなものがあるのか,これを受けるメリット,弁護士費用の相場等について解説します。
弁護士による退職勧奨のサポートの内容
弁護士が退職勧奨をサポートする方法としては,大きく分けて,①対象社員の状況等に合わせた退職勧奨の方針の検討等といったアドバイザー的な業務と,②退職勧奨の面談に同席して社員の説得等を行う業務の2つに分けられると思われます。
これらのうち,①だけを弁護士に依頼して実際の退職勧奨は経営者や人事担当者が行うという場合はありますが,②だけを依頼するということは通常なく,②を依頼する場合には,①の段階から弁護士が関与することになるのが通常と思われます。以下,それぞれの内容を詳しく解説します。
①退職勧奨の方針を検討する
退職勧奨を始める前の準備として,対象の問題社員ついて,どのような問題行動があり,それをどのように伝えるか,社員からの反論としてどのようなものが予想されるか,それに対してどのように再反論するか,退職に応じる場合の優遇措置(いわゆるパッケージ等)として何をどのタイミングで提示するか等,退職勧奨の方針や具体的な進め方・シナリオを検討します。また,パワハラと評価されないような伝え方についても,対象社員のキャラクターを聴取した上で検討するということもあるでしょう。
②退職勧奨の面談に同席する
会社側の弁護士として,退職勧奨の面談に同席し,経営者や人事担当者の方とともにヒアリングや説得等を行います。誰がどのような内容を話すのかといった役割分担については,事案によりけりですが,経営者等と対象社員の関係が悪化している場合には,後記の弁護士が面談に同席することによるメリットのとおり,主として弁護士が話を進める方がベターといえるでしょう。
弁護士のサポートを受けるメリット
弁護士のサポートを受けて退職勧奨を行うメリットは,対象の問題社員・リストラ対象社員から退職合意書が取得できる可能性がアップする一方で,パワハラとして損害賠償請求を受けるリスクが抑えられることです。
以下,①退職勧奨の方針を検討する,②退職勧奨の面談に同席するという業務ごとに,メリットを具体的に解説します。
①方針を検討する業務のメリット
退職勧奨を成功させるには,社員の問題行動の内容,程度や,社員の性格等を考慮した上,パッケージ等優遇措置の条件と,それをどのように切り出すかといった,事案に応じた方針や進め方を検討しておくことが必要といえます。これには労働法の知識や交渉術といった専門的な知識・技術が要求されますが,専門家として弁護士のサポートを受けることにより,より成功率の高い方針や進め方の準備ができることになります。
また,退職勧奨がパワハラ等に当たる等,違法と評価されないようにしなければなりませんが,問題社員の性格によっては毅然とした対応をとる必要もあるため,このあたりのバランスが重要となります。そこで,どこまでやるとパワハラ等となり違法とされるかの見極めが肝要ですが,これも専門知識が必要とされますので,事前に弁護士と検討しておくことで,自信をもって面談に臨むことができます。
②面談に同席する業務のメリット
①の業務で事案に応じた方針や進め方を準備しても,これを実行できなければ意味がありません。また,どんなに周到に準備しても,退職勧奨のような交渉ごとは生ものですので,臨機応変な対応が求められます。そこで,交渉ごとのプロである弁護士が同席することにより,当初検討した方針どおり面談を進められることが期待できます。
また,弁護士という肩書きは一種の権威となり,特に経営者や人事担当者の方に対しては強気に出ていた社員との心理的なパワーバランスを是正できる場合もあります。さらに,会社側との関係が悪化している社員については,経営者等とは冷静な話合いができなくても,弁護士が外部の者であることを強調することで,感情面での障害が除かれ,話合いが円滑に進められることも少なくありません。
弁護士費用の相場
①退職勧奨の方針を検討する業務
依頼する弁護士との契約次第ですが,問題社員の状況等をヒアリングした上で方針や進め方を検討し,成果物としてレポートを提出するという業務であれば,30万円前後が相場になろうかと思われます。
また,レポートだけでなく,面談を重ねて社員側の反論等のフィードバックを受け,それ以降の進め方をアドバイスする等,業務が継続的になる場合にはタイムチャージ制となるのが通常ですので,依頼する弁護士の時間単価や,顧問契約締結の有無,依頼する業務のボリューム等により大きく変動します。そうすると,この場合の相場はなく,事案によるといわざるを得ません。
②退職勧奨の面談に同席する業務
上記のとおり①と合わせて依頼を受けるのが通常であるため,タイムチャージ制の場合には,面談に同席する時間分の費用がさらにチャージされることになります。
面談まで含めて着手金・成功報酬とする契約の場合には,退職させたい社員の給与や問題行動の内容等にもよりますが,着手金として20万円~,成功報酬として40万円~が相場ではないかと思われます。
なお,サイト運営者の弁護士費用については,こちらをご覧下さい。
まとめ
退職勧奨を成功させるには,事案に応じた適切な方針を立てて,臨機応変に実行する必要がありますが,専門家である弁護士のサポートの有無で結果が大きく変わることも少なくありません。コストはかかりますが,問題社員の退職までの期間が延びて賃金が余計に発生することや,退職合意書をもらえないばかりか損害賠償請求を受けて紛争対応も必要になることを考えると,決して割高な出費とはいえないでしょう。そこで,問題社員の退職勧奨に少しでも不安がある場合には,弁護士に相談されることをお勧めします。
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